株式会社ニューロスカイ(以下、ニューロスカイ)は、「誰でも!どこでも!簡単に!測れる簡易型脳波計」をミッションに、ヘルスケアから医療現場まで幅広い用途で脳波データを収集する技術を開発しています。⾃宅での測定が可能になることで、これまで把握できなかった脳波トレンドの評価が簡易にできることが特徴です。

ニューロスカイは、アメリカ合衆国サンノゼに本拠を構えるNeuroSky,Inc.の日本法人として2012年に設立。その後、2018年にジョイントベンチャーとして米国本社から独立しています。NeuroSky,Inc.は1999年の創業以来、生体センシングを可能にする自社独自の半導体チップを設計・開発し、その技術を基に脳波の測定装置やブレイン・マシン・インタフェース(BMI)関連機器、それらの技術を活かした玩具の設計・開発・生産を進めてきました。

この提携では、ニューロスカイがヘルスケアや玩具の開発によって培った、日常生活の中で脳波をセンシングできる独自のノイズフィルタリング技術を、大日本住友製薬が医療・医薬品開発のバックグラウンドを活かして「医療機器脳波計」としての質を担保することで、より一般に普及させることを目指しています。

生体信号センサーによる脳波計測の可能性

これまでの医療機関による脳波計

人生で日常生活に制限なく暮らせる期間を「健康寿命」と呼びます。日本人は平均寿命が伸びて長生きになっていますが、「健康寿命」は、「からだ」や「あたま」の衰え・病気・ケガにより必ずしも「平均寿命」と同じ長さではありません。人生最後の老年期を、最後まで自分らしい人生を全うするためには、身体だけでなく「脳の健康」を保つことが重要なのです。

脳の健康を長期的に維持するためにも、定期的な測定とモニタリングが欠かせません。しかし、これまで脳の健康状態を個人で診られるツールの普及ができていないと、ニューロスカイ会長の伊藤氏は語ります。

「脳波の計測は環境に影響を受けやすく、扱いにくいのが実情です。医療現場の脳波測定は、安静状態を保つことや技師等の専門家が行う必要がある等の制約があります。脳波計測には数十万円かかることもあり、病院では準備等で測定が終わるまで長時間になることが一般的です。自分で脳波を測定できること自体が非常に大きなメリットになります。」(ニューロスカイ会長 伊藤氏)

達成したい世界観(社会的意義)

ニューロスカイが掲げるのは、「誰でも!どこでも!簡単に!」というミッションです。言い換えれば、個人が環境等の制約条件の影響を受けず、簡単に脳波計測できる状態を目指すこと。体調不良時に体温計で熱がないかを測ったり、定期的に体重計に乗り健康管理したりすることと同じように、簡単に脳波を計測できる世界の実現を目指します。

脳波計測の障壁が下がり、定期的に脳のデータ取得が可能となると、ヘルスケアと医療領域のデータ連携の可能性も広がります。また、脳の状態を継続的にトラッキングすることで、例えば、運動、コミュニケーション、趣味といった行動がいかにその人の脳に影響を与えているのかを把握できるようになります。これらは活動の動機付けになるとともに、個々人にとってベストな介入方法を特定できる可能性があります。

このように、脳波のモニタリング技術は、誰もが自らの脳の健康オーナーになれる世界を後押しします。健康寿命の最後を自分らしく生きるためには、脳の健康が重要になってくるわけです。

ニューロスカイが開発してきた商品

米国法人であるNeuroSky,Inc. は、医療領域とは対極の「おもちゃ市場」から始まったのが特徴です。脳波のセンシング技術は、「脳波でラジコンカーを動かす研究」によって生まれました。

ラジコンカーを動かすには、どこでも脳波計測ができるセンサーチップと、計測データの精度を高めるノイズフィルタリング技術が必要です。1999年にシリコンバレーで創業してから、ニューロスカイは20数年かけてこの研究に取り組んできました。その研究開発から、信号処理技術及び脳波解析アルゴリズムを搭載した脳波センサーモジュール「TGAM」が生まれます。

「TGAM」はヘッドセット、帽子、ヘルメット、ヘアバンドへの組込みが可能なセンサーです。取得した微弱な脳波信号からノイズ除去を行い、信号を増幅しデジタル信号へ変換。また、自社開発のアルゴリズム、集中度・リラックス度のリアルタイム表示を行うなどの機能も搭載しています。

上記の写真は、これまで「TGAM」を搭載することで、ニューロスカイが開発を手がけた商品の一例です。左の写真では、2004年から数世代を経て開発が続けられてきた、さまざまなタイプの簡易型脳波計が並んでいます。

右の写真は、日本をはじめ米国、ヨーロッパ等で話題となった「脳波でうごく、ネコのミミ」がキャッチコピーの「necomimi」という商品です。猫の耳の形をしたカチューシャを装着すると脳波を感知し、集中度やリラックス度の変化によって耳がほぼリアルタイムで動く仕組みになっています。また、米国企業とのコラボレーションにより、「脳波を使って遊ぶ“脳波トイ”」がいくつか販売されています。

このように、医療領域とは対極のおもちゃ市場で、数々の脳波測定技術を活かした商品開発を行ってきました。この知見の積み重ねと、大日本住友製薬の医療・医薬品開発のバックグラウンドを掛け合わせて、医療機器としての質が担保された脳波計を開発予定です。

脳波計ではどんなデータが取れるのか

現在開発中の脳波計は、医療機器脳波計と同じレベルの前頭部脳波が取得できます。この情報により、どのようなことが判定できるようになっていくかは今後の研究次第ですが、測定シーンの拡大により、これまで活用されていなかった場面でも脳波が活用されていくことが期待されています。

例えば医療分野においてはこれまで客観的判断ができなかった病態の把握など、またヘルスケア・エンタメ分野においては「本当に期待通りの脳機能に至っているのか」といった目に見えない脳の状態をデータ化することなどです。

なお、脳波はそもそも環境や個人の要因でゆらぎが発生します。特定のポイントで測定しただけでは正しい状態の判別は難しく、脳波計を用いて頻繁にデータを測定し、データを時系列に並べて記録を取っていくことで、より正確かつ長期的な脳の傾向も捉えることができます。

医療機器としての病院への導入を目指して

医療現場で使用される脳波計では、一度の脳波測定の度に病院に行く必要があり、測定のためには準備も含めて約3時間必要でした。それに対してニューロスカイが開発中の脳波計は、誰でも装着可能で、測定条件も場所や状態を問わない測定方法を編み出しました。価格についても、従来の脳波計より安価な価格を目指して開発を進めています。

本脳波計は、医療機器として認証取得後まずは研究用途などで全国各地の研究拠点への導入を見据えています。その後、非医療機器としてヘルスケア用途の脳波計も販売する予定です。数年後には解析アルゴリズムと組み合わせて医療領域での活用や、計測された脳波自体がデータとして活用されていく世界の実現を目指しています。

そのほかにも、大日本住友製薬フロンティア事業推進室では、自社がもつ精神・神経疾患領域における医薬品の研究開発で培った知⾒と、ビジネスパートナーの独自技術や知見、特許をかけ合わせることで、研究や事業開発に取り組んでいます。パートナー企業としてコラボレーションの可能性を検討いただけそうな方は、ぜひお問い合わせください。